「最近、歩くのが遅くなった」「ペットボトルのふたが開けにくい」——年齢のせいと片づけてしまいがちなこうした変化は、じつはフレイルのサインかもしれません。

フレイルは、放っておくと要介護につながる一方で、早めに気づいて手を打てば元の元気な状態に戻せる(可逆的な)段階でもあります。この記事では、宮城県で介護予防・フレイル予防の現場に立つ理学療法士が、フレイルの定義から自宅でできるセルフチェック、今日から始められる予防策までをまとめて解説します。

フレイルとは「健康」と「要介護」の間にある状態

フレイルとは、加齢にともなって心身の活力(筋力・認知機能・社会とのつながりなど)が低下し、健康な状態と要介護状態のちょうど中間にある段階を指します。英語の「Frailty(虚弱)」が語源です。

大切なのは、フレイルが身体だけの問題ではないということ。次の3つの側面があります。

  • 身体的フレイル……筋力の低下、歩く速さの低下、体重減少、低栄養など
  • 精神・心理的フレイル……気分の落ち込み、意欲の低下、もの忘れの増加など
  • 社会的フレイル……外出の減少、人との交流の減少、閉じこもり、独居など

この3つは互いに影響し合います。たとえば「外出が減る(社会的)」→「歩かなくなり筋力が落ちる(身体的)」→「転ぶのが怖くてさらに出なくなる(精神的)」という悪循環が、フレイルの典型的な進み方です。

高齢者の約半数は「フレイル」または「その予備群」

東京都健康長寿医療センター研究所が全国の高齢者を対象に行った調査では、65歳以上のうちフレイルが8.7%、プレフレイル(予備群)が40.8%、健常が50.5%という結果が報告されています。つまり、およそ半数がすでに何らかの低下段階にあるということです。

「うちの親はまだ元気だから大丈夫」と思っていても、実際には予備群にあたるケースは決して珍しくありません。

サルコペニア・ロコモとの違いを整理する

似たような言葉が多く、混乱しやすいところです。表で整理します。

用語意味着目する範囲
フレイル心身の活力が低下し、要介護の一歩手前にある状態身体+精神・社会面まで
サルコペニア加齢にともなう筋肉量・筋力の低下筋肉
ロコモティブシンドローム骨・関節・筋肉・神経など運動器の障害で移動機能が低下した状態運動器(立つ・歩く)

サルコペニアやロコモは、身体的フレイルを引き起こす原因にあたります。フレイルはそれらを含んだ、より広い概念だと考えるとわかりやすいでしょう。

自宅でできるフレイルのセルフチェック

① 指輪っかテスト(30秒でできます)

東京大学高齢社会総合研究機構が千葉県柏市で行った大規模調査(通称・柏スタディ)から生まれた、道具のいらない簡便法です。

  1. 椅子に座り、両手の親指と人差し指で輪をつくります。
  2. 利き足ではないほうのふくらはぎの、いちばん太い部分を軽く囲みます(強く締めつけないこと)。
  • 囲めない(ふくらはぎのほうが太い)……サルコペニアのリスクは低め
  • ちょうど囲める……注意が必要な段階
  • 隙間ができる……サルコペニアのリスクが高い

この調査では、隙間ができるグループほど、その後の要支援・要介護認定や死亡のリスクが高いことが報告されています。あくまで簡易的な目安ですが、「気づくきっかけ」としては十分に役立ちます。

② 後期高齢者の質問票(自治体の健診で使われています)

厚生労働省が2019年に策定し、2020年度から全国の市町村で高齢者の健診や保健指導に使われている15項目の質問票です。研究では、このうちフレイルに関連する12項目で「健康リスクあり」にあたる回答が4項目以上ある場合、フレイルの可能性が高いと報告されています。

実際の設問には、たとえば次のようなものがあります。

  • 6か月間で2〜3kg以上の体重減少がありましたか
  • 以前に比べて歩く速度が遅くなってきたと思いますか
  • 週に1回以上は外出していますか
  • 普段の生活でもの忘れが気になりますか
  • ふだんから家族や友人と付き合いがありますか

体重・歩行速度・外出・もの忘れ・人づきあい——身体面と社会面の両方が問われている点に注目してください。フレイルを「筋力の問題」だけで捉えないための、よくできた設計になっています。

フレイル予防の3本柱

① 運動:週2〜3日の「筋トレ」を足す

厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、成人・高齢者ともに筋力トレーニングを週2〜3日行うことが新たに推奨されました。筋トレによって筋力・身体機能・骨密度が改善し、高齢者では転倒や骨折のリスク低減も期待できるとされています。

ここで見落とされがちなのが、ウォーキングだけでは筋トレの代わりにならないという点です。散歩の習慣がある方ほど「運動はしている」と安心しがちですが、筋肉に負荷をかける動きを別に足す必要があります。自宅なら、次のようなメニューで十分です。

  • 椅子からの立ち座り……10回×2〜3セット。反動を使わず、ゆっくり座るのがコツ
  • かかと上げ……椅子や机につかまって10〜15回×2セット。ふくらはぎと足首の安定に
  • 片脚立ち……左右それぞれ30秒〜1分。必ず支えのある場所で

② 栄養:たんぱく質と「口の元気」

体重が半年で2〜3kg減っている——これはフレイルのなかでも特にわかりやすい危険信号です。高齢期は食が細くなり、知らないうちにたんぱく質が不足しがちになります。肉・魚・卵・大豆製品・乳製品を毎食どれかひとつは入れることを目安にしてください。

あわせて大切なのが、かむ力・飲み込む力といった口まわりの機能(オーラルフレイル)です。「硬いものが食べにくい」「むせることが増えた」は、栄養不足の入口になります。歯科の定期受診も予防の一部と考えましょう。

③ 社会参加:週に1回は「外に出る用事」をつくる

実は、フレイルは社会的な側面から始まることが多いと言われています。仕事の引退、配偶者との死別、免許の返納——きっかけで外出が減り、そこから食事量と筋力が落ちていく。この順番を知っておくだけで、打てる手が変わります。

通いの場、サロン、地域の体操教室、趣味の集まり、ボランティア。内容は何でも構いません。「週に1回、決まった日に外へ出る予定がある」という状態そのものが予防になります。

フレイルは「気づいた時が始めどき」

フレイル予防でいちばんお伝えしたいのは、この段階は引き返せるということです。要介護状態になってから元に戻すのは簡単ではありませんが、プレフレイルやフレイルの段階なら、運動・栄養・社会参加の3本柱で健常な状態に戻っていく方を、現場でたくさん見てきました。

まずは今日、指輪っかテストをやってみてください。ご自身でも、ご家族でも構いません。そこが第一歩です。


株式会社ナイスハビットのフレイル予防事業

株式会社ナイスハビットでは、理学療法士が地域の通いの場や介護予防教室に出向き、体力測定・運動指導・住民リーダーへの助言までを一貫して行っています。自治体・地域包括支援センターのご担当者さま、ご家族の方は、お問い合わせフォームよりお気軽にご相談ください。

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執筆:荒川 賢太(理学療法士/健康経営アドバイザー・株式会社ナイスハビット 代表取締役)