労働災害というと、機械への挟まれや高所からの墜落を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、いま日本の職場でもっとも多い労働災害は「転倒」です。しかも、この件数は減るどころか増え続けています。

この記事では、宮城・仙台エリアの中小企業の経営者・安全衛生担当者の方に向けて、転倒・腰痛災害の実態と、現場で実際に効果が出る対策、そしてエイジフレンドリー補助金の活用方法を、理学療法士・健康経営アドバイザーの視点から整理します。

労働災害の実態:休業4日以上が年間13万人超

厚生労働省が令和8年5月27日に公表した「令和7年の労働災害発生状況(確定値)」によると、死亡者数は700人(前年比46人・6.2%減)で過去最少となりました。一方、休業4日以上の死傷者数は135,333人と、依然として高い水準が続いています。

業種別に見ると、製造業26,371人(前年比1.1%減)、商業23,128人(同4.9%増)、保健衛生業19,291人(同2.2%増)、陸上貨物運送事業15,632人(同4.1%減)。小売業・飲食・介護といった第三次産業で増加しているのが近年の特徴です。

なぜ「転倒」が増えているのか

最大の要因は働く人の高齢化です。加齢に伴い、バランス能力・下肢筋力・つまずいたときの反応速度が低下します。同じ床の段差でも、20代なら踏みとどまれるところを、60代では転んでしまう。しかも転倒したときの重症度が高く、休業日数が長引きやすい。

もう一つは腰痛です。介護・運送・小売のように「持ち上げる」「中腰になる」動作が多い職場では、腰痛による休業が慢性的に発生します。腰痛は本人の申告に頼るため表面化しにくく、気づいたときには離職につながっていることも珍しくありません。

「気をつけて」では転倒は減らない

多くの企業が最初にやるのは、注意喚起のポスター掲示と朝礼での声かけです。もちろん無駄ではありませんが、これだけで転倒件数が下がった職場を、私はほとんど見たことがありません。

理由は単純で、転倒は「不注意」だけで起きているわけではないからです。原因は大きく3つに分けられます。

  1. 環境要因:段差、濡れた床、照度不足、通路の障害物、ケーブル類
  2. 作業要因:両手がふさがる運搬、急ぎの動線、無理な姿勢
  3. 身体要因:下肢筋力・バランス能力・柔軟性の低下、視力の変化

環境要因と作業要因は、多くの企業がすでに手をつけています。手つかずのまま残りやすいのが3つ目の「身体要因」です。ここが、理学療法士が関われる領域です。

身体要因にアプローチする3ステップ

ステップ1:測る(現状の可視化)

まずは従業員の身体機能を測定します。片脚立位保持時間、椅子からの立ち座り回数、前屈などの柔軟性テストといった、特別な機器がなくても短時間で実施できる指標で十分です。数値にすることで、誰がリスクの高い状態にあるのかが具体的に見えます。

ステップ2:職場に合わせた運動を組む

測定結果と業務内容を突き合わせ、必要な運動を選びます。運送業なら体幹と股関節、介護職なら持ち上げ動作の姿勢、小売なら立ち仕事の下肢疲労対策、というように職場ごとに優先すべき部位は違います。全社共通の体操を配るだけでは、なかなか成果につながりません。

ステップ3:続く形にして、再測定する

1日3分でも、朝礼前や休憩明けなど既存の業務の流れに組み込めば続きます。逆に「各自でやっておいて」は続きません。そして半年後にもう一度測る。数値が改善していれば、従業員のモチベーションも、経営判断としての納得感も変わります。

エイジフレンドリー補助金を活用する

高年齢労働者の労働災害防止に取り組む中小企業を支援する制度として、厚生労働省のエイジフレンドリー補助金があります。令和8年度は制度が再編され、これまでの「高年齢労働者の労働災害防止対策コース」「職場環境改善コース」「転倒防止・腰痛予防のための運動指導コース」が「専門家総合対策コース」に統合されました。熱中症対策は独立したコースになっています。

  • 補助率:取組内容に応じて1/2、3/4、4/5
  • 上限額:専門家総合対策コース・熱中症対策コース 各100万円、コラボヘルスコース 30万円(いずれも税抜)
  • 令和8年度の申請受付:令和8年5月20日〜10月31日
  • 専門家を活用したリスクアセスメントは令和8年8月31日締切

注意していただきたいのは、予算上限に達した時点で受付が早期終了する点です。実際、別制度である「団体経由産業保健活動推進助成金」は令和8年度分が7月10日に予算上限到達で受付を終了しています。使うと決めたら、早めに動くことをおすすめします。

転倒対策は、健康経営優良法人の評価にもつながる

転倒・腰痛対策は「安全衛生の話」だと思われがちですが、実際には健康経営の取り組みとしても評価対象になります。運動習慣づくりや身体機能の測定は、健康経営優良法人(ブライト500含む)の認定要件と重なる部分が多い領域です。

認定取得を考えている企業であれば、労災対策と健康経営の取り組みを別々に走らせるのではなく、ひとつの施策として設計したほうが確実に効率的です。認定の進め方については「健康経営優良法人の取り方|中小企業が押さえる申請5ステップと2027年スケジュール」で詳しく解説しています。

まとめ

  • 令和7年の休業4日以上の死傷者数は135,333人。転倒は増加傾向にある
  • 転倒の原因は環境・作業・身体の3要因。手つかずになりやすいのは「身体要因」
  • 測る→職場に合わせて組む→続く形にして再測定、の順で進める
  • エイジフレンドリー補助金は令和8年度から制度が再編。受付は10月31日まで(予算到達で早期終了あり)
  • 労災対策と健康経営はまとめて設計するほうが効率的

株式会社ナイスハビットでは、宮城県内の中小企業さま向けに、身体機能の測定と職場に合わせた運動指導を軸にした「フィジカルポテンシャルプログラム(PPP)」をご提供しています。転倒・腰痛対策でお困りの企業さまは、お気軽にご相談ください。


参考:厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況(確定値)」(令和8年5月27日公表)/厚生労働省「エイジフレンドリー補助金」令和8年度公募要領/「団体経由産業保健活動推進助成金」(独立行政法人労働者健康安全機構)

ご注意:本記事は2026年8月時点の公表情報にもとづく一般的な解説です。補助金の要件・金額・受付期間は年度ごとに変更され、予算到達により早期終了する場合があります。申請にあたっては必ず最新の公募要領をご確認のうえ、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。当社は社会保険労務士事務所ではありません。